ERATO 竹内超量子もつれプロジェクト

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プロジェクト概要

京都大学大学院工学研究科の 竹内 繁樹(たけうちしげき)教授を研究総括とする提案が、科学技術振興機構(JST)による令和6年度戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究ERATO(注1)研究領域「超量子もつれ」として採択され、2024年10月1日に発足しました。ERATOは、革新的技術のシーズの創出をめざし、研究総括が、独創的な構想に基づく研究領域(研究プロジェクト)を自らデザインし、異なる分野・機能からなる研究グループにより構成した大型研究プロジェクトを指揮し、新たな分野の開拓に取り組む点に特徴があります。

研究総括の竹内教授は、光子(注2)の量子もつれ状態(注3)の生成・検出など、量子情報処理の基礎研究における成果に加えて、光量子センシング(注4)の研究においても多くの先駆的な業績を上げています。研究領域「超量子もつれ(注5)」では、情報科学、数学、物理学の理論研究と量子光学の実験研究の融合を図り、複雑な量子状態や、従来は実現されていなかった波長域での量子もつれ光などの「超量子もつれ」の基礎原理の理解と活用の研究を行います。この研究により、現在の量子コンピューター(注6)の考え方を超えた新たな量子情報処理の創出や、量子コンピューターの実装方法の効率化、さらに新たな光量子センシングの創出をめざし、材料科学から医療まで幅広い分野に対する学術的・社会的に貢献することが期待されます。

1.ERATO研究領域名

超量子もつれ

2.研究領域「超量子もつれ」の概要

近年、量子の本質的な性質である、量子重ね合わせや量子もつれを用いる量子技術の研究開発が急速に進展しています。特に量子コンピューターは、従来のコンピューターには時間がかかりすぎて解けない問題を解けるとして期待されていますが、そのために必要と考えられている1,000万量子ビット級の大規模化のためにはさまざまな課題があります。特に、量子状態を指定するパラメーターの数が、量子ビット数に対して指数関数的に増大することで、量子状態における量子もつれの状況もより複雑になりますが、その効率的な識別方法や、大量の情報を効率良く書き込んだり読み出したりする方法については十分に理解されていません。

本研究領域では、情報科学、数学、物理学の理論研究と量子光学の実験研究の融合を図り、従来の「量子もつれ」の概念を超えた、多数の量子による複雑な量子状態である「超量子もつれ」の基礎原理の理解と活用の研究を行います。これにより、複雑な量子状態の識別と、効率的な情報の入力・出力を可能にする新たな手法の開発に挑戦します。具体的には、さまざまな量子の中でも室温で状態制御が可能かつ長距離伝送も可能な光子を用いて、実証的な研究を実施します。さらに、従来は実現されていなかった波長域での量子もつれ光の実現と応用の研究も実施します。

本研究領域により、大規模な量子状態の理解と活用が可能となり、現在の量子コンピューターの考え方を超えた新たな量子情報処理の創出や、量子コンピューターの実装方法の効率化が期待されます。さらに、未踏の波長域を用いた新たな光量子センシングの創出も目指します。これら光量子技術の発展の加速により、材料科学から医療まで幅広い分野に対する学術的・社会的に大きなインパクトをもたらすことが期待できます。

3.研究領域「超量子もつれ」の研究推進体制について

京都大学大学院工学研究科の 竹内 繁樹(たけうちしげき)教授を研究総括とし、岡本 亮(おかもとりょう)同准教授、向井 佑(むかいゆう)同助教ならびに電気通信大学大学院情報理工学研究科の 原 聡(はらさとし)教授をグループリーダーとし、京都大学のほか、電気通信大学、関西大学、金沢大学、大阪大学、広島大学、東北大学、香川大学などの研究者や大学院生からなる3つの研究グループが、国内外の研究機関と連携して研究を推進します。

研究内容としては、情報科学、数学、物理学の理論研究と量子光学の実験研究の融合を図り、複雑な量子状態や、従来は実現されていなかった波長域での量子もつれ光などの「超量子もつれ」の基礎原理の理解と活用の研究を行います。

4.期待される学術的、社会的インパクト

この研究により、現在の量子コンピューターの考え方を超えた新たな量子情報処理の創出や、量子コンピューターの実装方法の効率化、さらに、未踏の波長域を用いた新たな光量子センシングの創出をめざします。これにより、金融、材料科学、生産技術、生命科学、医療などの幅広い分野に対する学術的・社会的に貢献することが期待されます。また光量子技術に関する人材の育成にもあたります。

用語解説

注1 ERATO (えらとー)

科学技術振興機構(JST)による戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究ERATOを指す。Exploratory Research for Advanced Technologyの略である。1981年に発足した創造科学技術推進事業を前身とする歴史あるプログラムで、規模の大きな研究費をもとに既存の研究分野を超えた分野融合や新しいアプローチによって挑戦的な基礎研究を推進することで、今後の科学技術イノベーションの創出を先導する新しい科学技術の潮流の形成を促進し、戦略目標の達成に資することを目的としている。

注2 光子 (こうし)

光を構成する素粒子で、エネルギーの最小単位。1905年にアインシュタインによって提唱された。

注3 量子もつれ状態(りょうしもつれじょうたい)

複数の量子が特定の相関(状態の組み合わせ)の量子力学的な重ね合わせにあり、量子がそれぞれ独立した量子状態を持っているとは見なすことができないような状態。例えば、2つの光子が「両方とも垂直偏光にある状態」と「両方とも水平偏光にある状態」の重ね合わせ状態などがある。1935年に、アインシュタインらが、一般的に正しいと見なされてきた局所実在論と量子もつれ状態が両立しないことを指摘、その後量子もつれ状態の存在が検証実験により確認されており、その先駆的研究に2022年にノーベル物理学賞が授与されている。

注4 光量子センシング(ひかりりょうしせんしんぐ)

量子もつれや、量子力学的な重ね合わせなどを利用することで、従来の光センシングの感度の限界を打破し、または新しい機能を実現する、新たなセンシング技術。量子もつれ光を光源にすることで、レーザー光を光源に利用した場合の感度限界を打破した「量子もつれ顕微鏡」や、可視域の光検出器を用いて赤外域の分光を可能にする「量子赤外分光」などがある。

注5 超量子もつれ(ちょうりょうしもつれ)

最近研究統括の竹内教授らは、多数の量子が複雑な量子相関を形作った状態について、それらが線形光学素子のみで実現できるかどうかなど、従来の「量子もつれ」の概念とは異なる概念による分類が有効な場合があることを示している(Science Advances (2023))。本研究領域では、そのような多数の量子が複雑な量子相関をもった状態や、従来は実現されていなかった波長域での量子もつれ光などを合わせて、「超量子もつれ」と称している。

注6 量子コンピューター

従来のコンピューターが、0または1の値を取る「ビット」を基本単位として動作するのに対し、0と1の重ね合わせ状態を取りうる「量子ビット」を基本単位とする計算機の概念。因数分解や量子シミュレーションなどにおいて、従来のコンピューターには時間がかかりすぎて解くことのできない問題を解きうると期待されている。

研究者のコメント

量子科学技術は近年急速に進展し、その大規模化やシステム化などの「エンジニアリング」的な研究に、最近重点が置かれてきているように感じます。しかし、現在実現されつつある複雑な量子状態を記述するのには、莫大な数のパラメーターが必要になり、従来の方法でそれを推定するのは実質不可能です。このように、複雑な量子状態からどのように効率的に情報を推定し、また入出力する方法は十分に理解されていません。また、もつれ光についてもこれまで研究されている波長域はごく限られた領域です。本ERATOの研究領域では、これらの課題に、情報科学、数学、理論物理学および実験物理学の研究者が一致団結して取り組み、新たな学術の潮流を生み出すとともに、あらたなアプリケーションの創出につなげます。

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戦略的創造研究推進事業における令和6年度新規研究総括および研究領域の決定について 詳細